DTM
Round 7 Misano

DTM第7戦、ミサノ。ジョエル・エリクソンが
BMWドライバーとして史上最年少のDTMウィナーに。

51歳の鉄人、準備は万端。DTMにとって歴史的な夜がやってくる。

第7戦ミサノは、さまざまな「ファースト・タイム」にあふれている。このサーキットでのDTM初開催。DTM史上初となるナイト・レース。そして、このレースでDTMデビューを飾るひとりのイタリア人ドライバーの存在も、忘れてはいけない。アレックス・ザナルディ、51歳。今シーズンのレギュラー・ドライバーのなかで最年長のゲイリー・パフェット(No.2 Mercedes-AMG Motorsport PETRONAS)でさえ37歳であることを考えると、その挑戦は無謀なように思われる。しかも、彼にはさらに決定的なハンディキャップがある。2001年、レース中のアクシデントにより両足を膝上で切断することを余儀なくされたのだ。しかし、ザナルディは挫けなかった。事故後に始めたハンドサイクルで、パラリンピックにおいて4度の金メダルを獲得。世間を驚かせた。
そして、事故直後からカーレースへの復帰を志していたザナルディをサポートし続けたのが、他ならぬBMW Motorsportだった。あれから17年。今回BMWは、彼のためにハンド・ドライブ・システムを搭載したBMW M4 DTMを開発。ザナルディはこのプロジェクトに精力的に取り組み、事前のテストではハンディキャップを感じさせないタフネスぶりで約1,200kmもの距離を走破した。鍛えぬかれたアスリートの不屈の闘志が、ミサノの夜に情熱の炎を灯らせる。

レース1

波乱の予兆か。雨に翻弄された予選は、苦しい結果に終わる。

8月25日(土)、午後8時。イタリア、ミサノの空は荒れ模様。大きな雨粒が落ち雷鳴も轟くなかで、初のナイト・レースに向けた予選が始まった。ブラックのボディにトリコローレ・カラーがあしらわれた特別仕様のBMW M4 DTMを駆り、ザナルディもセッション開始早々にコース・イン。ウェット・コンディションで危なげなく周回を重ねていく。滑りやすい路面にドライバーたちが手こずるなか、開始6分半の段階でティモ・グロックが暫定のトップ・タイムをマーク。さらにそのタイムをアウグスト・ファルフスが上回る。その後、徐々にレコード・ライン上の水量が減るにつれ、各マシンは軒並みタイム・アップ。残り3分を切る頃からラスト・アタックへと入るも、最後までレイン・コンディションは変わらず。雨を味方につけることのできなかったレース1の予選は、グロックが5番手、ファルフスが9番手。以下13番手にブルーノ・スペングラー、15番手にマルコ・ウィットマン、16番手にジョエル・エリクソンと続き、セッション序盤にコース・オフしてしまったフィリップ・エングは18番手に終わった。DTMデビューとなったザナルディはそのエングのタイムに遅れること約1秒の19番手となったが、コース・オフすることなく無事に20分間の予選を走りきった。

戦略は功を奏さず。惜しい場面もありながら、荒れたレースを制せず。

予選終了を待っていたかのように雨はやみ、路面コンディションはウェットからドライへと向かう。しかしコースが完全に乾ききらないままという難しい状況のなか、レース1の決勝は午後10時30分にスタートを迎えた。既に水煙は立たないものの、多くのドライバーがレイン・タイヤを選ぶなか、BMW勢ではファルフスとスペングラーの2台がスリック・タイヤでのスタートを選んだ。序盤に気を吐いたのはウィットマン。スタートの15番手から7位にまでジャンプ・アップすると、後方から攻め立てる3台のアウディを相手に立ちふさがり、一進一退の攻防を魅せる。しかし4周目、テール・トゥ・ノーズのバトルのなかでスピンを喫してしまいポ ジション・ダウン。流れを変えるべく、その周の終わりにピットへと向かった。3周目にはエング、ウィットマンと同じく4周目にはグロックとエリクソンが規定のピット・ストップを消化。路面が乾きはじめたのを見て、スリック・タイヤを装着しコースへと戻ってゆく。
8周目にメルセデス同士の接触が発生。ほぼ同じタイミングでアウディのマシンとエリクソンも接触し、スピン。この同時多発アクシデントによりSC(セーフティカー)が導入される。スリック・タイヤを履いてスタートしたファルフスとスペングラーはここまで順調にポジションを上げ、後続を引き離した上でピットへと向かう作戦だったが、このSC導入によりその戦略は台無しとなってしまった。SC先導中の11周目にザナルディはピットへ。問題なく作業を終え、コースへと復帰する。13周目にリスタート。2位のファルフスは果敢に前を攻め、ダニエル・ジュンカデラ(No.23 Mercedes-AMG Motorsport REMUS)との数コーナーに渡るサイド・バイ・サイドのバトルの末にトップを勝ち取る。さらにオーバー・ランしてしまったジュンカデラの脇をすりぬけ、エングも2位へと躍進。しかしその直後、後方で今度はアウディ同士が接触しスピン。この接触に巻き込まれたスペングラーはコース・サイドにマシンをストップ、リタイヤとなった。さらにメルセデスの1台がシケインでエリクソンと接触しスピンするなど大荒れの展開となり、ふたたびSCが導入されることとなった。
17周目に2度目のリスタート。今回もファルフスはスタートを上手く決め、トップを堅守。エングは一時3位に順位を落とすも、その翌周に相手がミスを犯し2位へと復帰する。19周目にファルフスがルーティンのピット・イン。ペースが良かっただけに悔やまれるが、これによりファルフスは首位争いから脱落。予選で18番手に甘んじていたエングが、まさかのトップへと躍り出た。しかし、8周目に発生したメルセデス同士の接触の際、2台に接近していたエングも余波でダメージを受けていた。その影響がここにきて出始め、ペースは徐々に悪化。25周目に一気に2台に抜かれると、そのままズルズルとポジションを落としてしまい、最終的には8位でレースを終えた。7位にグロック、9位にウィットマンとドライバーズ・ランキングを争う2人はポイントを獲得したものの、ファルフスとエリクソンは11位と12位で入賞はならず。スペングラーを含む5台ものマシンがリタイヤとなってしまった波乱のレースだったが、ザナルディは13位で完走を果たした。

フィリップ・エング(No.25 SAMSUNG BMW M4 DTM)
「僕はピット・アウトした後にプッシュを続け、遂にトップに立つことができた。18番グリッドからのスタートにも関わらず。ただ、そこに至るまでのバトルで数度の接触があったことも事実だ。誰が悪いわけでもないし、DTMのコンペティティブな戦いなら当然のことだと思う。結果的に、そのダメージが最後に響いてしまったけれど。でも、この経験は全体として見ればプラスだったと思うよ。」

アウグスト・ファルフス(No.15 Shell BMW M4 DTM)
「マシンのペースはとても良かった。僕たちが立てた作戦も、チームの仕事ぶりにも文句の付けようがなかったけど、結局のところ、運が僕たちに味方しなかった。今日はそれ以上でもそれ以下でもないね。明日は気持ちを切り替えて、また戦いに臨むよ。

アレックス・ザナルディ(No.12 BMW M4 DTM)
「予選と比べれば、レースでのペースは目に見えて良くなっていました。特に終盤には、他のドライバーたちのスピードにもしっかりとついていけるようになっていたことが、明日への自信となっています。私にとって今日のレースは、日曜に向けた経験を積むことが重要だったのです。」

レース1 決勝結果

7. ティモ・グロック(ドイツ)No.16 / BMW Team RMR
8. フィリップ・エング(オーストリア)No.25 / BMW Team RMR
9. マルコ・ウィットマン(ドイツ)No.11 / BMW Team RMG
11. アウグスト・ファルフス(ブラジル)No.15 / BMW Team RMG
12. ジョエル・エリクソン(スウェーデン)No.47 / BMW Team RBM
13. アレックス・ザナルディ(イタリア)No.12 / BMW Team RMR
-. ブルーノ・スペングラー(カナダ)No.7 / BMW Team RBM

レース2

雨の予選、ふたたび。ミサノの夜は、一筋縄ではいかない。

一夜明けた8月26日(日)。午後4時40分からのフリー走行では降っていなかった雨が、まるで予選を待っていたかのように降りはじめ、前日にも増して激しいレイン・コンディションとなってしまった。午後8時のセッション開始と同時にほぼ全てのマシンがコースへ。水煙を上げながら、いつにも増して慎重にタイヤへ熱を入れてゆく。開始10分を過ぎたところで、昨日に引き続きティモ・グロックがその時点でのトップ・タイムを叩き出す。残り7分となる頃に、マルコ・ウィットマンがグロックのタイムを上回るも、他のマシンがタイムを伸ばし、結果的にウィットマンが7番手、グロックが9番手という結果となった。ジョエル・エリクソン、アウグスト・ファルフス、フィリップ・エングはそれぞれ12・14・16番手。伸び悩むブルーノ・スペングラーは18番手に終わり、アレックス・ザナルディはレース2も最後方19番手から機を窺うこととなった。そして昨日と同じく、予選が終わる頃に雨はその矛を収め、空にはどんよりとした雲が不気味に立ち込めていた。

混乱を極めたレース2決勝。気まぐれな女神は、ルーキーへと微笑んだ。

午後10時30分。昨日と同じような難しい路面コンディションのなか、レース2の決勝がスタート。当然、ほぼすべてのドライバーがレイン・タイヤをチョイスした。スタート直後の混乱に乗じ、9番手スタートのグロックは4位へとジャンプ・アップする。コースはまだ濡れていたが、レコード・ラインは徐々に乾きはじめていた。これを見た各チームは、早めに規定のピット・ストップをこなし、スリック・タイヤへとスイッチする作戦を採る。BMW勢では1周目に早くもウィットマンが、3周目にグロックとファルフス、4周目にエングとスペングラーがピット・インし、スリック・タイヤへと履き替えた。
8周目が終わる頃、状況は一変する。セクター3付近で大粒の雨が降りはじめたのだ。秒単位で雨量は増してゆき、路面はみるみるうちにヘビー・ウェットへと変わる。スリック・タイヤではまともに走れず、たまらずピットへと戻り、再度レイン・タイヤへと履き替えるマシンが続出。ピット・レーンは混雑と混乱に見舞われた。この時点で未だピットへと入っていなかった5台は、これにより大きなリードを手にすることに成功する。そのなかにはBMW M4 DTMのザナルディ、エリクソンも含まれていた。しかし、エリクソンのマシンは挙動が安定せずフラフラとセクター3を走ってゆく。実は全19台のうち、唯一彼だけがスリック・タイヤでスタートする賭けに出ていたのだ。しかしその戦略ももはや限界。9周目にピットへと向かい、レイン・タイヤへと履き替える。昨日に続き、奇策は失敗に終わったかと思われた。しかし12周目、メルセデスのマシンが単独スピンでコースアウトしたことにより、SCが導入される。この時点で上位4台は未だピットへと入っておらず、規定のピット・ストップを消化しなければいけない。間にエリクソンを挟み、2回のピット・インを余儀なくされた6位以降のマシンとはほぼコース1周分の大きな差がある。そして上位4台とエリクソンの間にあった差は、SCの導入によりリセットされる。気まぐれなミサノの女神が、エリクソンに微笑んだ瞬間であった。
15周目、残り28分のリスタート直後から、2位につけるエドアルド・モルタラ(No.48 SILBERPFEIL Energy Mercedes-AMG Motorsport)は猛烈なペースで走りだす。ピット・インまでにエリクソンに対し十分なマージンを築かなければならないからだ。当初9秒程度だった差は周回を重ねるごとに拡がり、モルタラがピットへと向かった25周目には約29秒にまで開いていた。しかしそれでも十分ではなく、エリクソンは実質のトップへと躍り出る。残り8分。ピット・アウトしたモルタラは鬼神の如きラップを連発し迫り来る。ファイナル・ラップ。エリクソンとの差を1秒8まで詰めたモルタラだったが、タイム・オーバー。弱冠20歳と2カ月。BMWドライバーとして史上最年少、シリーズ全体でも史上2番目に若いDTMウィナーとして、ジョエル・エリクソンはその名を歴史に刻んだ。2度のピット・ストップを強いられたマシンたちではスペングラーが11位、ウィットマンが13位。グロックとエングは僅差の15・16位。ファルフスは他車に接触されリタイヤという結果となってしまった。
エリクソンが無線で喜びを爆発させている頃、もう1台のBMW M4 DTMが静かにゴール・ラインを駆けぬけた。本戦のゲスト・ドライバー、ザナルディのマシンだ。状況が味方したとはいえ、父と子ほど離れた年齢のレギュラー・ドライバーを向こうに回しての5位というリザルトは驚嘆に値する。ミサノの女神は、母国の誇りである彼にもまた、微笑んでいたに違いない。

イェンス・マルクヮルト(BMW Motorsport ディレクター)
「このレースで打ち立てられた記録を、本当に誇りに思います。ジョエル、DTM初優勝おめでとう!これから、祝賀会の用意をしなくてはいけないね。そして51歳のアレックスが5位を獲得したことは、まったくもって信じられない偉業です。昨日と今日と、彼はこの週末、見事にレースを戦いぬきました。賛辞を送ります。混沌としたレース展開のなか、他のドライバーたちがトップ10入りを果たせなかったことは残念でなりませんが、ニュルブルクリンクに向けジョエルがくれた勢いを維持できるように頑張ります。」

ジョエル・エリクソン(No.47 BMW M4 DTM)
「本当に、何と言っていいのか…。言葉では言い表せないよ。小さな頃から、このDTMで優勝することを夢見てきて、それが現実のものとなったんだ。僕たちの戦略はリスキーで、セクター3で雨が降りはじめたときにはマシンをコース・オフさせないようにコントロールするのが本当に大変だった。でも結果として、いま僕はポディウムの頂点に立っている。これは運命。そう思うことにするよ。本当に信じられない。」

アレックス・ザナルディ(No.12 BMW M4 DTM)
「エンジニアが無線で私のポジションを伝えてくれたとき、思わず“ウソだろう?”と思ってしまいました。結果を残せたことで、この週末までのすべてが報われました。5位というリザルトは、パラリンピックで金メダルを獲ったときと同じくらいうれしいです。このような機会を与えてくれたBMW Mortorsportと、私を温かく迎え入れてくれたDTMファミリーに心から感謝します。この素晴らしい週末のことは、いつまでも忘れないでしょう。ここに来るまで51年もかかりましたが、少なくとも今日、私はDTMというステージに立ったのです。本当にありがとう。」

レース2 決勝結果

1. ジョエル・エリクソン(スウェーデン)No.47 / BMW Team RBM
5. アレックス・ザナルディ(イタリア)No.12 / BMW Team RMR
11. ブルーノ・スペングラー(カナダ)No.7 / BMW Team RBM
13. マルコ・ウィットマン(ドイツ)No.11 / BMW Team RMG
15. ティモ・グロック(ドイツ)No.16 / BMW Team RMR
16. フィリップ・エング(オーストリア)No.25 / BMW Team RMR
-. アウグスト・ファルフス(ブラジル)No.15 / BMW Team RMG

それぞれが、それぞれの可能性を賭けて。シリーズは終盤戦へ。

度重なる混乱と大いなる感動。「ファースト・タイム」に満ちたミサノ・ラウンドは、ルーキーの鮮烈な初優勝で幕を閉じた。シーズンは残り3戦を残すのみ。チャンピオンシップを考えると、負けられない戦いが続く。次戦は6月以来約3カ月ぶりにドイツ国内へと舞台を戻す。ニュルブルクリンク。数々の名勝負が行われてきたこのコースで、ドライバーたちはどのような戦いを見せるのだろうか。9月8日(土)・9日(日)。BMWはミサノからドイツへと凱旋する。